電波ソングはどこへ消えた?

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電波ソングは偉大なのだ

 令和のこの時代に、また新たな電波ソングが誕生した。

 Patra ChannelでMVが公開された『偉大なる悪魔は実は大天使パトラちゃん様なのだ!』は特徴的な声と曲調が魅力的で、電波ソングに馴染みがない人からすればなんかよく分からないけど可愛い曲といったところだろうか。しかしこれは紛れもなく電波ソングだろうと思う。

電波ソング(でんぱソング、電波歌、電波曲)は、「過度に誇張された声色」(アニメ声に通じる。ほとんどの女性声優は演技でこのような声を出している)、「意味不明、支離滅裂だが印象的な歌詞」、「一般常識からの乖離」、「奇異ではあるが耳に残る効果音や合いの手、掛け声」、「一度聞いたらなかなか頭から離れない」などを特徴に持つ音楽を指す。

萌えソング – Wikipedia

 電波ソングとはなんぞやという説明はみんな大好きWikipediaでなんとかしてもらいたい。もうみんな電波ソングについて理解した前提で話を進めるけど、一時期は猛威を振るっていた電波ソングも今は死にかけていた。それはWikipediaを見ただけでもすぐに分かるだろう。たぶん。

 編集自体は先月にも行われているものの、ある程度中身の伴った編集ともなると年単位で更新が無い。歴史の項目をそのまま電波ソングの歴史だと捉えるならば、2010年度に電波ソングは死んでしまったとも言える。だが本当に電波ソングは死んでしまったのだろうか……?

 そんなはずはない。いや、そうであってほしくない。この曲を聴くまで電波ソングの存在自体をすっかり忘れていたが、電波ソングには有無を言わせない力強さがある。勇気を与えてくれる不思議な曲、それが電波ソングだ。悩みの種類が増えた現代社会にこそ必要な応援ソングに違いない。

電波ソングはなぜ死にかけているのか

 単純に今の社会で需要がない可能性も否定もしきれないが、世の中には傍目には需要がないものでも供給され続けているものがある。しかしフロッピーディスクのように意味があって細々と作られていたものですら今は生産が終了し、アイコンからその姿を消していってしまっている。
フロッピーも既に死語だよね。時代の流れ怖い。

 あれだけ愛された電波ソングが消えてしまったのは何故か。どうして作られなくなったのか。これは需要と供給なんてものとは関係なく、顧客とクリエイターの幅が広がってしまったのが原因ではないかと思われる。インターネットの発達によって壁がなくなり、表現力も上がったのだ。

 電波ソングが消えてしまったのが仮に2010年前後だったとして、その前に何が起こったのか。電波ソングが消える土壌はどこに出来上がっていったのか。30秒ほど考えてみて思いついたのはYouTubeとニコニコ動画だった。そこで私は気付いた。そうだ、初音ミクだ。

 初音ミクが電波ソングを殺したんだ!

ボーカロイドは電波ソングの芽を摘むか?

 アルコールで妙なことになっている私の脳細胞が一つの答えを見つけた。初音ミクの登場と大ブレイク。これが電波ソングを殺したんじゃないか。いや、その言い方は正しくない。電波ソングと萌えソング、そしてアニソンの壁を初音ミクが壊したんだ。

 これまた大勢の方がご存じだろうということで、初音ミクの説明については割愛する。随分と前のインターネット界隈でも曲を作れる者は数えきれないほどに存在していた。しかし曲を作れるだけで、自ら歌う者や誰かに依頼してまで曲を完成させる者はそう多くなかった。

 自ら歌詞のついた曲を公開しているような者は、作曲を行う者と比較して異様に少なかったのである。よほどの変わり者かバンド活動をしているような者ばかりで、そういった者たちが集まるサイトもある程度限られていた。つまり興味を持たなければ耳に入ることもなかったのだ。

 しかしボーカロイドが誕生し、2010年には『初音ミク・アペンド』も発売された。今まで曲を作るばかりで歌詞を入れていなかったような人たちがボーカル曲を量産し始めた。曲作りの入り口も広がり、若くして活躍するクリエイターも雨後の筍のように生えてきたのである。

 初音ミクには限界がない。常人であれば不可能な歌も軽々と口遊み、疲れ知らずで次々と新曲を歌う。すっかり耳に馴染んでしまった電子音声で、彼女は楽曲とクリエイターを量産し続けた。ジャンルの区別もなく、分け隔てなくその声を響かせた。その結果が電波ソングの死といえよう。

電波ソングはキャラソンとなった

 先述した通りでボーカル曲を作って公開するのはハードルが高かった。そのハードルがぐんと下がり、誰でも一人で作曲から公開まで出来るようになったのはもう理解できるだろう。だが、それだけなら電波ソングは消えなかった。動画共有サイトが一般化していったのが大きかったのだ。

 誰でもボーカル曲を作り、色んな人が見てくれる時代。初音ミクとニコニコ動画がうっかりそんな時代を作り上げてしまった。今となっては初音ミクすらもYouTubeに奪われてしまっている気もするが、初音ミクが話題になった当時のニコニコ動画は、オタクや才能の吸引力が凄まじかった。

 残念ながら良いことばかりではない。本来は顧客となって電波ソングを聴いていたような人々もクリエイターになったり、初音ミクそのものの虜となってしまった。その結果何が起きたかというと、普通の人には様々な理由から歌えない電波ソングがニコニコ動画に溢れえかえってしまった。

 商業で電波ソングが完全に消滅してしまったとは断言できないものの、今までそうそう量産されなかった電波ソングがあっさり作られてしまうようになり、それらが初音ミクを含むボーカロイドの曲というカテゴリに入ってしまった。これが死の始まりであったといえる。

 電波ソングが電波ソングと認知されぬまま(あるいは認知されていても深く意識されずに)広まっていき、誰かのオリジナル曲として、ボーカロイドの一風変わった曲として親しまれていき……気付けば電波ソングという言葉だけが消えてしまう。そんな悲劇が待っていたのだ。

 初音ミクとニコニコ動画は楽曲に関連したクリエイターを多く産み出した。それは素晴らしいことで、今後もその文化を絶やさずに続けていって欲しくはある。彼らは電波ソングを殺しかけてはいるが、その血を継いだ楽曲は今も誰かの手によって奏でられている。

 電波ソングという言葉が仮に消えてなくなったとしても、ボーカロイドの誰かが歌い続ける限り存在するだろう。アニメやエロゲの主題歌としてではなく、誰かのキャラソン、オリジナル曲として。こんな世の中に自ら電波ソングを歌いあげた周防パトラに、私は拍手と一言を送ろう。

 パトラ……ASMR作品の新作まだ?

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